株式会社NTTデータ経営研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:柳 圭一郎、以下 当社)は、内閣府が主導して、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下 NEDO)が行っている「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/自動運転(システムとサービスの拡張)/交通制約者に優しい自動運転バスに係る基礎調査(以下 本事業)」を受託し、交通制約者が自立し、より安心して利用できる自動運転バスの実用化・社会実装を目指した調査を実施しました。このたび、調査結果に基づき、「交通制約者に優しいバスに係る基礎調査に基づくデザイン実装要件の構想と留意点(以下 デザイン実装要件と留意点)」を作成し、NEDO成果報告書データベースにて公開しましたのでお知らせします。
【「デザイン実装要件と留意点」のポイント】
1. 交通制約者タイプ別・バス利用場面別の交通制約者の困り事とバス運転士の困り事に言及
2. 自動運転バスのデザインレイアウト案
3. 交通制約者に優しい自動運転バスのデザインレイアウトの実現に向けた提言
【背景】
内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期では、車椅子利用者や視覚、聴覚などに障がいのある方、ベビーカーを使用する方などの交通制約者が自立し、より安心して自動運転バスを利用できるサービスの実用化や社会実装に必要な要件などを明らかにすることを目的に、本事業が企画されました。当社は本事業を受託し、交通制約者のニーズや運転士の困り事について分析を行った上で、自動運転バスの車内レイアウト案(図1)を作成し、交通制約者参加のもと、実際のバス車内のモックアップやVRを使った評価会を実施し、そこで得られた評価結果などをもとに、デザイン実装要件と留意点を作成しました。
【デザイン実装要件と留意点について】
1. 交通制約者タイプ別・バス利用場面別の交通制約者の困り事とバス運転士の困り事に言及
交通制約者がバス利用において感じている困り事を、交通制約者タイプ別・バス利用場面別に整理し掲載しました。
交通制約者タイプは、交通制約者当事者が参加したワークショップや有識者へのインタビューを基に7種類((1)肢体不自由者、(2)視覚障がい者、(3)聴覚障がい者、(4)発達障がい者/知的障がい者、(5)精神障がい者、(6)高齢者、(7)ベビーカー利用者)を記載しています。
また、バス利用場面については5フェーズ((1)バス停~乗車時、(2)乗車~空席・空きスペースの確認~着席、(3)乗車中、(4)料金の支払い、(5)降車準備~降車時)に分け、それぞれ1~5つの困り事を記載しています。「車内で突然の体調不良になった場合の対応」など、自動運転化に伴い一層解決が困難となる課題も挙げられました。
<交通制約者の困り事の例>
○交通制約者タイプ別:視覚障がい者
視覚障がい者は、見ることに難しさがあるため、アナウンスなどの音による情報や、触ることで得られる情報などを頼りに周辺の状況を推測して行動しています。特に全盲の人は、どこに何があるのかを把握することが難しいため、空席を探すことや、立っている時にどこに立てば人にぶつからないかわからないという困り事を感じています。また、周辺の状況を把握するために、周りのものに触れることについて、他の乗客の迷惑にならないかという不安も感じています。
○バス利用場面別:乗車中
・バスの横揺れで転倒する恐れがある(肢体不自由者、高齢者等)
・アナウンスや文字情報では正確な情報を得られない(視覚障がい者、聴覚障がい者、高齢者等)
・車内で突然の体調不良になった場合などの対応が難しい(ベビーカー利用者、精神障がい者等)
・高齢者に優先席に座って欲しいという想いを伝えられない(視覚障がい者、精神障がい者等)
・運転士との会話に遠慮やためらいがある(視覚障がい者、高齢者等)
また、運転士の困り事には、バスが停車する前に乗客が席を立ってしまうことから生じる車内転倒事故や、車椅子利用者が乗車した際に、座席を折り畳み、車椅子を固定する作業に時間が掛かってしまい車椅子利用者の方に気を使わせてしまうこと、等が挙げられました。
2. 自動運転バスのデザインレイアウト案
交通制約者の困り事を解決するデザインレイアウト案を7つ((1)自動スロープ、(2)車椅子固定装置・車椅子スペース、(3)折りたたみ式座席、(4)車内ディスプレイの表示内容、(5)車内アナウンス、(6)タッチ式降車ボタン、(7)ディスプレイ式降車ボタン)掲載しました。これらのレイアウト案は、有識者へのインタビューやワークショップにてアイデアを得たのち、実際のバスを使用したモックアップやVRなどで具体化し、評価会にてフィードバックを頂いて(図2)ブラッシュアップしたものです。将来の自動運転化を見据えて、運転士が十分に交通制約者のサポートをできない状況でも応用できるようなものとしています。
各レイアウト案は、その概要、解決したい交通制約者およびバス運転士の困り事、デザイン実装のイメージ(イラスト)、レイアウトの要件、留意点および参考となるコメントや関連法規・基準等で構成しています。留意点としては、バスレイアウト以外の箇所の改良が必要になるものや、交通制約者間で意見が対立しているものを記載しています。
<デザインレイアウト案の例:車椅子固定装置・車椅子スペース>
○デザインレイアウト案の概要
現在、車椅子を固定するためには運転士が運転席を離れ、座席を降りたたみ、3点ベルトで車椅子を床に固定する必要があり、時間を要しています。このことが、車椅子利用者のバス利用のしやすさや、バスの定時運行に影響を及ぼしています。簡単に車椅子を固定することができる車椅子固定装置を導入することで、この課題を解決します。この固定装置は、バスの床に設置した固定具に、車椅子側に取りつけた留め具を通すと、両者がワンタッチで固定されるものです(図3)。
○デザイン実装要件の例
車椅子利用者が、車椅子固定装置まで迷わずに車椅子を移動できるようにするために床にガイド線を入れることや、固定装置に、杖や視覚障がい者が利用する白杖が引っ掛かったり、誤って固定されたりすることがないようにするために、固定装置には蓋を取り付け、蓋は簡単に開閉できるようにするといった要件を掲載しました。
○実装における留意点の例
車椅子を車椅子固定装置に固定するためには、車椅子側に固定装置に差し込むための留め具が装着されている必要があります。海外では市販されているものがありますが、国内には存在しません。また、車椅子にも様々なタイプ、モデルがあります。国内の車椅子にも車椅子を傷つけずに留め具を装着できるよう、車椅子に留め具を取り付ける技術、構造が必要となります。
3. 交通制約者に優しい自動運転バスのデザインレイアウトの実現に向けた提言
今後、上記のようなバスのレイアウト改良、社会実装のために重要だと考察した3つの取り組みについて記載しています。具体的には、以下の通りです。
・交通制約者が改良したバスのレイアウトの設備や機能を認識し、安全に利用できるようにするために、改良点を社会的に周知すること(例:全盲の人は、新しいバスの構造、機能を理解できず、使いこなすことができない)
・障がい者を支援する機器や、バス停等、交通制約者がバスに安全に自立して乗ることができるよう、周辺設備をより良くしていくこと(例:バス停の時刻表が見づらい)
・都心のみでなく地方も含むバス会社でも、持続的に交通制約者に優しいバスを導入できるよう、費用対効果を明確化すること
【デザイン実装要件と留意点の公開先】
以下、NEDO成果報告書データベースのウェブサイトから、検索およびダウンロードができます。また、SIP/自動運転(システムとサービスの拡張)のウェブサイトでも、来年度を目途に公開予定です。
●NEDO成果報告書データベース
https://www.nedo.go.jp/library/database_index.html
●SIP/自動運転(システムとサービスの拡張)のウェブサイト
【今後について】
当社では、今回の取り組みを通じて、交通制約者や一般のバス利用者に優しい自動運転バスの実用化や社会実装の促進を目指すとともに、全ての人が自立し、安心して参加できる社会を実現するべく、社会課題の解決に取り組みます。
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